年越し。ロシアでの大きな出会いも。

夏の終わりか秋だったか、友人たちと大学近くのピーシュキ屋でピーシュキをほおばっていると、男が話しかけてきた。

男は突然片言の日本語で話しかけてきた。「日本からですか?」非常に不自然なフレーズではじまった。

話を聞く限り、ろくな人間ではない可能性が高かった。見た目は22歳ほどと若々しいのだが、実年齢は28だったし、芸術アカデミーを卒業したてで寮を出なければならず住居がない、しかし職もないのでどうすればいいのか分からない、と。でもどういうわけかぼくは彼ととても仲良しになった。芸術家、という存在がぼくを惹き付けたのかもしれない。

とにかく、それから彼とは何度も会っているが、話を準備しなくてもぼくたちにはいつも話すことがあり、それは止まらない。彼にはお金がないから、いつも彼のアパート(とても環境の悪い、立地だけは良い格安の部屋を見つけていた)だったり、とにかくお金のかからないところで色々と話した。色々なことがお互いに新しい。もちろん彼にイラッとすることも多々あるのだが。

彼の家に住んでいる人は数人いて、また楽器をたくさん置いている人もいる。楽器を置いている人は、これから修理工、と書くことにする。大変なことに、彼と修理工は同じ名前だ。

年越しはこの修理工の家で過ごした。イタリアのウォッカであるグラッパを飲み、当たり前のようにバカルディを飲んだ。修理工を中心とする友人が集まって住んでいるこの家は、どこも何かしらデザインが施されていて楽しい。共用スペースにはターンテーブルがあり、修理工が音楽を流していた。ぼくも彼らと一緒になって酒を浴びて踊った。(こんなに明るくて人と分かりあえる気分になれることが日本では禁止されているなんて。)修理工が流したのは、流行りのイギリスやアメリカのポップスではなく、ソ連時代からあるポップスだったり(中にはソ連の体操まであった)ドイツのものだったり。独自の選択による独自の実行には、その人のアイデンティティが付きまとうから、ぼくにとってはそれはとても楽しい。アイデンティティが染み出す人間はぼくを惹き付ける。彼も修理工もぼくを惹き付ける。

彼はとうとう本音をもらした。「数年前までは俺も日本人の留学生と話そうとした。でも止めた。なぜだか分かるか?(僕は大体ここで分かった)面白くないからだ。俺が日本のことを知っていたり日本語を少し話せたりすると彼らは決まって『うまーい!』だったり『すごーい!』だったり、ということを言う。それで全て終わるんだ。俺は新しいことを知りたかったり感じたかったりするのに、いつも彼らは何もくれない。」と。
そして彼自身が繋がりのある日本人のビジネスマンについて、「彼は、自分の得になることしかまともに対応しない。自分の得にならないことは、長々とした意味のない文章で断る。」と愚痴をもらした。

これ(得に前者)はよくある事態だ。ぼくにとっては、残念なことに、日本に興味のあるロシア人、というのもあまり面白くない。彼らは所謂ビジュアル系のバンドを好み、コスプレを好む。そんなものはぼくにとってはくだらない。マンガもゲームも、ぼくからはほど遠い存在だ。彼はそういう文化以上に、極めて具体的に何がすごくてどういう点で自分が気に入ったかということについてどんどんぼくに紹介してくるし、それはぼくにとってとても楽しい。そして彼は言った、そういう話をしたときのぼくの返答はいつも新しくて面白い。ぼくはペテルブルクでいままで見た日本人の中で一番面白い、と。なんと光栄な。

結局、共通事項、というのは人を惹き付けやすいのだ、お互いに。同じ興味、同じ所属、同じ性質、同じ出自があれば、それは既にコミュニティ形成の理由、あるいは言い訳、となる。そしてそれに甘えるアジア人をぼくはたくさん見た。彼らは楽しそうだ。でもぼくにとって、それで終わることは本当に不満足だ。その先に、その人はどのようなことを言うか。どのような新しさをぼくに与えてくれるか。

留学した時に、同じ日本人で集まるのも結構だし、ビジュアル系やコスプレを中心とする日本に興味のある現地人と話すのもいいのかもしれない。人は人の楽しみがあるのだからいいのではないか、というのはよくある意見だし、 今では最早それが一般意思だから覆すのは大変だけれど、そういうので終わってしまうことは非常にくだらない。つまらない。先が見えない。会話の全ては事実の紹介に終始してしまう。残された時間も少ないが、貪欲に今のロシアでぼくが自分の力で触れ合えるものと触れ合ってこようと思う。

~ by akira2nd : 1月 2, 2013.

2件のフィードバック to “年越し。ロシアでの大きな出会いも。”

  1. ポポ、私はポポが彼との出会いを大切にしていてくれて本当に嬉しい!!
    絶対また会いたい!!

  2. またロシアに行きたいなぁって思い始めてる。
    今度はゆっくりしたいなぁ。
    ポポも残りの留学期間、実のある時間を過ごしてね!

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