ロシアの賄賂についてのお話

ロシア、と言えば「賄賂」という言葉を連想する人もいるのかもしれない。

例えば、「ロシア 賄賂」と検索をかけるだけで、「ロシアは賄賂天国」だとかそういった記事がズラズラと並ぶ。この賄賂、について少し考えてみようと思う。

関連記事としてnewsweekの記事(正直視野が狭過ぎると思う)ともうひとつブログ記事(個人的なものだと思うので、感想そのものは控える)を載せておこう。参考になる。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2010/09/post-1663.php
http://rbs.gouketu.com/page014.html
さて、ロシアで生活をしていて、何がよく目に付くかというと、「求人広告」なのだ。例えばマクドナルドの広告は「このバーガーがおいしい!」というものではなくて「うちで働けばこれだけの給料が得ることができます!」とかそういうものが多い。本当に、商品そのものを宣伝する広告をめったに、見ない。最近ロシアに「シャカシャカチキン」が登場したのだが、そのときはさすがに新商品としての広告を見たりもしたが。結局のところあまり思い出すことができない。
バスの中のきっぷ切りの仕事(コンダクター)に地下鉄の運転手の給料、警察官の給料などなど、ぼくは大体の給料の水準を理解した。

マクドナルドやカフェで働く→月に28000ルーブルから
バスのコンダクター→月に25000ルーブルほど
バスの運転手→月に35000ルーブルほど
地下鉄の運転手→月に50000ルーブルほど。

それではここで考えてみよう。例えばぼくはいま大学でロシア語の勉強をしているが、そこで外国人生徒たちを教えている先生の給料はいくらか。そして他にもロシア外務省に勤めている友人もいるが、その彼の給料はいくらか。
先ほどの例からすると、もしかしたら50000ルーブル以上を想定するのかもしれない。

結論を言えば、全然違う。彼らの給料は驚くほど低い

大学で外国人にロシア語を教えている先生たちや大学教員→月に10000ルーブルと少し
外務省の友人(立場を書くのは控える)→月に11000ルーブル、と言っていた。

そもそも日本と全く仕組みが違う事態になっている。
一度先生に聞いてみたが「カフェの仕事はいつも笑顔をしていないといけないし、コンダクターはいつも同じことをしていないといけない。それは辛い仕事だから給料が高いのが当たり前だわ。」と話していて仰天したことがある。

日本では、能力が給料に繋がるのに対し、ロシアでは仕事の辛さが給料につながっている。

以前はこれで大丈夫だったのだろう。先生は生徒から成績のために賄賂を受け取っていたし、役人も当たり前のように賄賂を受け取っていた(らしい)。医者も患者から賄賂を受け取っていた(そういえば、医者の給料も日本からは考えられないほど低い)。バスのコンダクターやカフェの店員に、いつ賄賂を受け取るタイミングがあるだろうか?
検察官をしている友人もいるが、その人も弁護士は未だに多量の賄賂を受け取っている、と話していたし、それが当たり前だと話していた。

外務省で働いている友人の話に戻してみよう。例えばモスクワで生活するとして、どれだけ安いアパートに住んだとしても、一ヶ月に8000ルーブルは飛んでいく。そしてモスクワだと物価は日本並みだ。月に11000ルーブル。どうやって生きるのか?彼自身は、母親とともに住んでいるため(ロシアは非常に、日本人がその実態を知れば本当にびっくりしてしまうほどに、離婚率が高い。彼の場合はそういう事情ではないのだが、片方の親と生活している、という点ではロシア人の若者によくある状態だ。)余裕があるが、それでも11000ルーブルは・・・。といったところ。

貯金?
ロシア人は割と手元にあるお金をパパパッと使ってしまう。銀行を信じる人は少ない。そういう考え方なのだ。

この文脈で考えると、メドヴェージェフ大統領のいった「徹底的に汚職と戦う」とはなんだったのだろうか。
例えば教師や医師の現在の給与水準で、賄賂=汚職とみなしてそれを徹底的に禁止することは、彼らにジリ貧の生活を強いることを意味する。そして現在人々は既に賄賂=汚職と考えているから、彼らはジリ貧の生活をしている。友人の数人は、一緒にカフェに入ってもコーヒーの一杯も頼まない。どうして?高いから。

こういうことを見た上で、ロシアで給料体制の見直し無しに汚職の撤廃を叫ぶことは、知的労働からの人離れを意味することは明白だろう。そうして今現在ロシアからは頭脳が流出し、プーチンはそれを嘆く。(そういえば最近、60歳を迎えたプーチンは自身が年金をもらいながら仕事をしたいのか、「年金をもらいながら働いても良い法律」を制定していた)一度テレビ局の番組にお邪魔したこともあったが、さすが反体制なことを絶対に言わないロシアのテレビ局、「海外へ行くのは愚か!」と叫んでいた。

例えば、ぼくがロシアに来てから、とてもこれはロシアらしい、と考えたことのうちのひとつに、「街角のゴミ箱へタバコをポイ捨てする人が後を絶たない時(小火の可能性がひどく悪化する)、ロシアではどうするか」という問いがあり、例えばロシアの場合、この答えは「街角のゴミ箱をごつくしてしまう。」ということなのだ。
ぼくは今まで幾度となく街中でゴミ箱の中から濛々と煙が上がるのを見たし、それはそれほど変わった風景でもなく誰も注意を払わない。こういう考え方なのだ。
「街角のゴミ箱へタバコをポイ捨てする人が後を絶たないとき、ロシアではゴミ箱をごつくする」と、「給料体制と賄賂がどう考えても結びついている状態において、そのまま賄賂をつぶしてしまう」。
なんとなく似ている。というかおそらくとても似ている。本質のグループを全く解決していない、という意味で。

賄賂、を精神論的にダメ!と決め付けてしまい安易に批判すると、ただただ体制の下にあるロシア国民は非常に辛いだろう。いつ体制は、仕組みは、変わるのだろうか。難しい話だ。
ただひとつ救いがあるとすれば、そのような低い給料でもその仕事にプライドを持って従事する人が常にある一定量いるのがこの国だということだ。これだけは大きく評価したいと思っている。

【追記】最後の「ただひとつ救いがあるとすれば、~」の段落について、バレエダンサーの砂原伽音さんより、コメントをいただいた。ブログには初登場の彼女だが、仲良くしてもらっている。

彼女のブログはこちら→http://profile.ameba.jp/kanonballet/

(以下抜粋)私が所属した国立劇場や、今の団では階級によって給料が平等だったけれども、公演の度に貰うギャラは、能力の一番高い第一ソリスト(私は基本的には第一ソリストですが、作品によっては第二、第三になっています)よりも、辛いパートを踊らなくてはならない第二ソリスト、第三ソリストのほうが多く貰うことがある。でも、それに対して誰も愚痴を言わない。”君は大変だったから”と皆が当然のように受け止める。寧ろお金よりも、”自分で納得いく踊りをしたい”、”お客さんに喜んでもらいたい”と思いながら仕事として舞台に立つので、”自分はロシアの国家資格を持ったダンサーだ”、ということを忘れないようにしている。ボリショイバレエアカデミーの教授達の給料も最低。(音楽院を卒業したバレエピアニスト達はさらに低い)普段クッキーを食べているだけで本当に何もしていない”寮長”のほうが大分高い給料を貰っている。けれども、ロシア国家の舞踊教師であることを誇りに思い、全力で未来のダンサー達を育てている。教授によっては、朝の8時から自分の気に入った子だけを担当クラス前に見て、放課後にも、その生徒を呼んで特別稽古を付けている。ロシア人が好きだー。何度でも言える。こんな環境で育つことが出来ましたことに、感謝をして。

~ by akira2nd : 1月 29, 2013.

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