ロシア語の発音

ロシア語を習い始めた初期のころ、ロシア語の発音がひどく苦手だったことを覚えている。
東京大学でロシア語を第二外国語として選択した場合、毎週金曜日に行われる「ロシア語演習」という授業で最初の三ヶ月みっちりと発音を叩き込まれる(非常にイメージしづらい話だろうが、とにかく「発音」を叩き込まれるのだ)。

ぼくはいわゆる「巻き舌」(ロシア語でいうRの発音)ができなかったし、何かとうまくいかなかった。いかし、そのころに悪いながらも試行錯誤したことと、ロシアにいて「発音を矯正しよう」と考えていたことがうまくつながったので、まとめていこうと思う。
もちろんぼくのロシア語の発音は不完全だし、まだまだネイティブからほど遠い部分はあるが、例えば同じスラヴ語族のポーランド人に「本当にロシア人みたいに話す」と褒められたりしたこともあり、まとめる決意に至った。

まずは母音について。
日本人の一番苦手な発音は「у」であろう。「うー」だ。「うー」。
これは口を突き出してする音で、割とどんなロシア語の教科書にも記述があるのでそこにまかせたい。

さらに、ш、щ、з、х、ы、р、ж、л、тなど、分かりやすく日本語と異なる音があるのだが、この中でもぼくがあまり教科書で読まなかったことや日本語と特筆して異なる点を書きたい。

まず、ш、щ、жに関してだが、これは「空気をこすらせた音」なので、お腹の底から空気をハッと吐いて口の中に空気を送り込まなければならない。この、お腹の底から空気を送り込むという「行為」そのものが日本語の発音の体系のなかにないので難しい。舌の形は教科書など参照だが、とにかく空気を送り込むことに関して日本人は忘れがちだ。おそらく、もちろん舌の形は変なのだがそれ以上に気をつけなければならないポイントだ。

そして、ぼくが案外苦労したのはТの発音だった。このТは日本語のタ行とも英語のTとも異なる。ぼくはそもそもそれに気づいていなかった。結局のところ上前歯のさらに上部に舌の先をつけて発音うる音なのだが、いわゆる軟膏蓋に舌をつけて発音する日本語のタ行とは違うものになる。
これに苦労していたのだが、最近気づいたことのうちのひとつに、特に日本の東北部で話される方言のタ行はロシア語のTに近いということがある。彼らは鼻から喉に抜ける音を持っていたりするのだが、そのタ行はおそらくロシア語にかなり近い。
とにかく、英語とロシア語のTの違いを意識せずに話していたころ、先生に「英語とロシア語は違うわ。どうして英語のような発音をするの?あなたは日本人でしょう」と言われたことから、とにかくTの発音を修正しようと思い立った。

結局のところ、何か有益な情報をもたらしたわけでもないが、このTに関しての記述は割りと新しいものではないかと思い書いてみた。さらに何か情報があればコメントしていただけるとありがたい。

関係のない話にはなるが、こういうこともあり、他の国出身の人がロシア語を話すのを聞けば、その言語の発音の特色もつかむことができるので楽しい。(発音がひどい、ということを書くが少なくともこれでぼくが他国の人を馬鹿にしたい、という意図は全くないことを書いておく)
ぼくのなかでロシア語の発音がひどくなってしまう言語は、中国語、アメリカ英語、フランス語だ。この三つに関しては、もはやロシア語を学習するロシア人以外の外国人が聞き取るのを困難な状態に陥れることがある。
南欧言語を話す人々はとにかくミャークキーズナーク(軟音)ができない。とにかく彼らの音は硬く硬く硬い。
韓国語には、日本語でいう「チェ」と「ツェ」の区別がないのか、そのあたりが全て「チェ」に収束してしまう。日本人感覚でいえば非常に「かわいい」訛りになるのだが、ロシア人感覚からすると非常に奇妙らしい。

これに対してアラビア語圏の人(例そのものが少ないのだが)にとってロシア語の発音は簡単らしい。ぼくもアラビア語の学習をしたことがあるのだが、アラビア語の非常に広い子音体系からすると、ロシア語の子音体系などへのかっぱなのだろう、アラビア語を母語とする友人はきれいにロシア語を発音し、「アラビア語を母語として話す人にとって発音が難しい言語はない」と話していた。非常にうらやましい。

中国人に数回、日本語とロシア語の発音が似ている、と言われたことがあるが、これはおそらくたまに話す日本語をロシア語のような息遣いで話ししまうことがあるから、と考えておく。

~ by akira2nd : 2月 1, 2013.

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